熊野修行

真部永地(eichan

2011.06.03-04

 

2010年関西に引っ越すことになり、どうしても採りに行きたいムシがいた。

ナンキセダカコブヤハズ!

左右に大きく張り出すコブ、同じく左右に突き出すヤハズ。♂の長い触角。

渋いセダカコブヤハズの亜種の中でも別格的存在だ!

コブの中で唯一秋の採集記録がないと言われるが、初夏まで待ってはいられない。

9月に引越しして早々に熊野詣の計画を立て始めた。

目指すは本州最南端のブナ林。

登山のサイトと地図を見ながら、弘法杉から直登するルートのうち、広葉樹林を通る右ルートを選び、GENKAさんに意見を求めた。

「登りはともかく、雨でも降ったら下りは危険」と南からの尾根ルートを勧められた。

「距離は長くなるが、緩やか」ということだった。

が、地図を見ると、車止めから登山口まで林道を2km弱。

そこからの尾根道は6つほどピークを越え、大小10ほどのアップダウンが待っている。

幸い、土曜日のムシ採りと日曜日のテニスで鍛えた体力は、実年齢より10年以上若い自信があった。

脇の枯枝を叩きながらも登山口まで30分、さらに2時間で目的地に到着。

標高950mほどから上がブナ林になっている。

ブナ林の瑞々しさは、本当に気持ちが良い。

ブナ林は尾根の北斜面に発達する。

北斜面を3050mほど下っては尾根まで登り、たくさん落ちている枯枝に付いた葉っぱを叩いて回る。

この作業を繰り返しながら尾根伝いに400500m進んだ。

ここまでの登山よりも遥かにきつい作業だ。

コブのいそうな優良物件はたくさんあったが、まったく落ちてこないし、食痕もない。

やはりナンキの秋採集は無理なのか・・・

しかし、ブナの立枯れや倒木はたくさんあり、特に優良な候補も選んだ。

6月のリベンジの下見は十分にできた。

 

さて、20116月ナンキチャレンジの本番だ。

未明から車を走らせ、9時に林道のゲートに到着。

登山口まで40分かかった。

関西に来てからテニスをしていないので、明らかに体力が落ちている。

それでも2時間半はかからずにブナ林に着いた。

下見はできている。

居場所は分かっているので、軽く摘んで温泉に浸かって帰ろう。

 

が、候補の立枯れにも倒木にもナンキの姿が見られない。

数日前の大雨の後も明け方まで断続的に雨が降っていたらしく、ナンキが出てくるのは明日になるのかもしれない。

それでも諦められずに、30m×500mほどのエリアの登り下りを繰り返した。

体力が落ちている上に、暑い。用意した水の消費が早い。

結局失意のうちに下山を始めた。

 

下山といっても6つのピークを越えなければいけない。

残り僅かな水をセーブしながらの登りはやけにきつく感じる。

既に脱水症状が始まっているようだ。判断力が鈍っている。

3つ目のピークを左からトラバースした。

尾根を気付かずに通り過ぎてから尾根に戻った。

さてさらに3つ目のピーク。もう後は下るだけだ。

水を一口だけ残して飲んだ。気付くと周りにはブナが生えている。

「なんだこんな近くにもブナが生えていたんだ・・・」

そんなはずはない。

なんということか、ブナ林に戻ってしまっていた。

もう、水は一口しか残っていない。足は脱水症状で痙攣を起こしている。

しかし自力で下山しなければ、誰もやっては来ない。

幸い一度脱水症状を経験しているので、自分の状況は分かる。

ここは決して焦らず、諦めないこと。

痙攣は収まるまで休めば良い。

過呼吸による手足の痺れを防ぐため、意識的にゆっくりと呼吸する。

まだ腕は動く。

腕が動けば下り斜面は這って進める。

とにかく登山口まで辿り着いた。

 

ここで残った一口の水を飲む。

あとはフラフラと林道を歩く。

谷底から沢の音が聞こえてくると、不思議に力が蘇る。

車に辿り着くと、150mほど車を走らせ、沢で水を飲んだ。

本当に生き返った。

里に下りて、夕食を食べ温泉に浸かると、完全復活。

復活すると悔しさが沸きあがってきた。

「このまま帰られるか!」

十分な水と食料を買い出して、山に戻ってナイターも行った。

翌朝、さすがに足がだるい。

が、スポーツタイツで足を締め付けると、何とか動くようになった。

 

さあ、今日も修行だ。

難行に挑むぞ!

7時に林道に入って、1040にブナ林到着。

随分と時間がかかった。

とにかく第1候補の立枯れに向かう。

キノコがびっしりと生えたブナの大木。

その樹幹を下から見上げていくと、2mほど上にいた!ペアだ!

足元の枯枝にも♂がいた。

第2候補のやや細い立枯れを見に行く。

やはりペアがいた。

もうこれ以上探索する力は残っていない。

ゆっくりと下山を開始した。

難行苦行の末にGETした。

 

なんと熊野に相応しいムシなのだろう・・・

 

♀をしばらく飼育して採卵、累代飼育を試みた。

なんとか、♂♀各1頭が羽脱した。

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