小佐渡のコブはサドコブか、タダコブか?
真部永地(eichan)
2009.09.19-20
2007年に25年の禁を破って再開したムシ(カミキリ)採りを本格化した2008年。
複数のサイトにコブヤハズの亜種サドコブヤハズの採集記が掲載された。
地図を見ながら採集記を読めば、それがDD山荘の周辺であることは明らかだった。
佐渡島には観光にも行ったことがない。カミさんに「来年、佐渡島に遊びに行こう」と誘い、
観光ついでのムシ採り計画が決まった。
が、ムシ採りを重ねるに伴い、観光ついででは収まらなくなってくる。
サドコブへの思いが強まると、サドコブが採れるイメージ(妄想)はできあがり、
サドコブ以上に気になるムシが頭を支配し始めた。
「日本産カミキリムシ」(東海大学出版)に記載の一節、「興味深いことにミトコンドリアDNAを使った
系統解析では、大佐渡に産するものと、小佐渡に産するものでは系統が異なる…」。
では、小佐渡に産するコブヤハズは何者なのか?
DNAの系統が異なるのなら、その表現形はいかなるものか?
図鑑を見ても、サイトで検索しても、コサドコブヤハズ(仮称)の写真は見当たらない。
大佐渡から小佐渡に向かう観光ルートにコサドコブヤハズが採れそうなポイントを無理やり組み込んだ。
さて、高速船が佐渡両津港に着くとレンタカーを借りて、まずは大佐渡DD山へ。
幸か不幸か晴天が続き、道路脇はカラカラに乾燥している。
ササに引っ掛かった枯葉、枯枝を叩いてもゴミムシすらも落ちては来ない。
とにかく地図で目星をつけた林道の入口に車を停めて、ビーティングの準備。
カミさんは車の中で本を読んでいると言う。
一人林道に向かおうとすると、まわりにたくさんのヤグルマソウの枯葉が目に付いた。
もちろんユキノシタ科の方である。
クルクル丸まってコブが好きそうな枯葉だが乾きすぎ。
うん?ヤグルマソウは、後の草叢の中にまで続いていた。
草叢の中から枯葉をそっと取り出してネットの上で開くと、いきなり大きな♀が落ちてきた。
真っ黒なエリトラの大顆粒、小顆粒は大きく、幅広で迫力あるが、
それ以上に凄いのが真っ赤と言うより肉色の頭と胸。
鬼ヶ島のアカオニを思わせるド迫力の配色だった。
その異形は、地域変異の大きいコブヤハズの中でも亜種扱いとするのが納得できる。
ただし、この後に採れたものは、多少は肉色がかるが黒かった。
これを見せるとカミさんも採ると言うので、ネットを預けて目視で探すと、すぐに♂が見つかった。
カミさんも♂♀を立て続けに落としていた。
しかし、他所はまったくダメ。やはり乾きすぎている。
DD山荘の裏山の藪の中で1♂が採れただけだった。
「50m位の間で9匹も採れた」というのが信じられないが、
ものは試しと夕食直後の19:00からDD山荘前の道端をライトで照らすと、本当に次々と枝を登ってきている。
60mで二桁に達した。
昼間はどこに隠れていたのか、日没と共に次々と登ってくるのだ。
ネットに落としてもほとんど擬死せずに活発に走りまわる。
ところが夜明け前に探すと、1♂が残っていただけだった。
乾燥した時のコブの生態を垣間見たようだ。
さて、2日目は小佐渡方面へ観光に。
そのついでにコサドコブヤハズのポイントへ!
大佐渡より標高の低い小佐渡でコサドコブヤハズが採れるような湿度の保てる環境があるだろうか?
半ばNULL覚悟である。
1つ目のポイントは峠から林道に入って間もなくのM山。
山の女神からの恵みを期待しての候補設定だが、やはり予想通りに乾いている。
アカマツの多い植生。草叢はススキがメイン。
それでも広葉樹が密になり湿度の保たれた一角があり、
うまい具合にオオカメノキの枝が折れて丸まった枯葉が重なり合っていた。
もしいるとすれば、ここしかない。
ネットで受けて、コン!ポトッ!ビンゴ!!
大型の♀だ。エリトラは黒くない。
しかし、本土の新潟産のような赤みはなく、群馬産のような土色でもない。
ミルクを注いだコーヒーとでも表現しようか、独特の渋い色合いに、斜めにシャープな白紋が鮮やかだ。
頭や胸は少し肉色がかった黒で、サドコブに近い。幅が広く、短めのエリトラの形もサドコブに近いが、
背中の膨らみは少なく、フラットな体型だ。
大顆粒・小顆粒ともに大きく、これもサドコブに似ているが、小顆粒の数はサドコブよりは少なめだ。
(本土産よりは明らかに多い)
側隆起後半の稜線上に並ぶ小顆粒はサドコブと同様に発達し、ノコギリ状で格好良い。
確かにサドコブとは異なるが、全体的には本土産よりサドコブとの共通点が多いように思われる。
もっと注目を集めても良さそうな私好みの渋さだ。
林道をさらに西に進むと、海岸に下る道が分かれていた。
ここでも車を停めた。海岸に下る道が湿っぽく感じたからだ。
道を少し下ると左に作業道があり、道の脇の枝が掃われていた。
掃われた枝は適度に枯れていい感じだ。
カエデやアジサイ類の枯枝から小型の1♂1♀を追加できた。
苦戦を覚悟していたのに、あっさりと♂♀揃い、気分良く観光に向える。
海岸に下りて、佐渡の銘酒「北雪酒造」へ。
残念ながらドライバーの私は我慢して、利き酒をカミさんに任せた。
カミさんが選んだ2本を帰宅後に飲んだ。普通には売っていない銘柄で、絶品だった。
念願のたらい舟にも乗って、今宵の宿に向かう。
帰路も林道と交差するので追加を狙うと、アジサイ類の枯葉に付く2♂が見つかった。
最後はとても立派な大型の♂だった。
<体長:21mm 体幅:8mm 触角:41mm>
大満足な戦果(山の女神からの贈り物)のおかげで、
最終日はトキ保護センターなどの観光(ファミリーサービス)に徹することができた。
左からサドコブヤハズ、コサドコブヤハズ、コブヤハズ(新潟県本土産) (上段:♂ 下段:♀)
各々♂3頭、♀2頭の体型(体長/体幅、触角/体長)平均値の比較を表1に示す。
データ数は少ないが、その傾向は明らかだ。
♂では、体長に対して、体幅が広く触角が長いというサドコブの特徴に一致している。
♀でもサドコブに近い値であるが、そもそもサドコブとタダコブに明確な違いがない。
顆粒の状態は♂♀ともにサドコブに近い。
私的見解だが、コサドコブヤハズは、亜種サドコブヤハズの小佐渡地域変異として扱った方が良さそうだ。
表1.コブヤハズ体型(体長/体幅、触角/体長)比較
♂ |
サドコブ |
コサドコブ |
タダコブ |
体長/体幅 |
2.70 |
2.78 |
2.86 |
触角/体長 |
1.82 |
1.83 |
1.64 |
♀ |
サドコブ |
コサドコブ |
タダコブ |
体長/体幅 |
2.71 |
2.73 |
2.68 |
触角/体長 |
1.21 |
1.22 |
1.18 |