フジコブ−セダカhybrid
真部永地(eichan)
2013.09.07
富士山の周辺では、フジコブヤハズとイワワキセダカコブヤハズが広範囲で共存している。
その混生地では、両者の交雑で生まれたhybridと思われる中間個体が採れることも、しばしば報告されている。
私も2010年に1♀を採っている。
<フジ−セダカhybrid♀;2010>
<フジ−セダカhybrid♀;2010>
フジコブの特徴:
・肩幅が広く、エリトラの中央部で幅が広がらない。
・エリトラ先端の突起が鋭い。
・エリトラに比較的明瞭な白紋が見られる。
・体色の赤みが強い。
・エリトラがより滑らかで多少光沢がある。
中間的な特徴:
・エリトラ中央部(コブ)が盛り上がるが低い。
イワワキセダカの特徴:
・エリトラ基部の大顆粒が不明瞭で、小顆粒が縦に並ぶような形態。
・白紋の位置が、エリトラ中央のコブの後端に近い。
・コブの側縁を小顆粒が縁取る。
と両種の特徴と中間的な特徴を併せ持っている。
このように複数の特徴を比較することで、hybridの判断ができる。
場所は、山梨県側の富士山麓(裏富士)、O山のブナ林(国立公園特別保護地区=採集禁止)と
針葉樹の樹海(同じく特別保護地区)に挟まれた針葉樹と広葉樹の混交林。
各々の特保から出てきた両種が混生しているような状況だ。
荒廃が進む表富士の有名産地に比べれば、こちらは好環境が維持し続けられるのだろう。
ただ、採集に夢中になっていると、特保に踏み込んでしまっているかもしれないので、注意が必要だ。
さて、hybridは♀しか採っていないので、♂を採りたくなり、久しぶりに訪れた。
車止めゲートからS登山道を進むと、ずっと特保の中を進むことになる。
ゲートの前を右に回ると、ほとんど特保を通ることなく、ポイントにアプローチできる。
ここでの狙いは、針葉樹の幼樹の低い位置の枝に溜まった枯葉。
低い位置に枝があれば、上の方の枝でも結構採れる。
樹海に近いこの辺りなら、フジコブかな、と思ったが・・・落ちてきたのはセダカ♂だった。
枝にかかった枯葉の中にコブがいた。
これもセダカ♂だった。
次は、セダカ♀。
何故か、フジコブが落ちてこない。
この辺りは、ほぼ同じくらいの頻度で採れるはずなのだが・・・フジコブは発生が遅れているのかな。
ちなみに、白紋が見られるけれど、他の特徴はすべてセダカそのもの。
この程度の白紋は、セダカの個体変異と考えるべき。
1/4hybridというものは存在するかもしれないが、1/8となると、個体変異と区別できるものではないはず。
さて次は・・・
相方のNETにhybrid♂が落ちてきた。
拡大して、各々の特徴をチェックすると、
フジコブの特徴:
・肩幅が広く、エリトラの中央部で幅が広がらない。
・エリトラ先端の突起が鋭い。
・エリトラに比較的明瞭な白紋が見られる。
・体色の赤みが強い。
・エリトラがより滑らかで多少光沢がある。
中間的な特徴:
・エリトラ中央部(コブ)が盛り上がるが低い。
イワワキセダカの特徴:
・エリトラ基部の大顆粒が不明瞭で、小顆粒が縦に並ぶような形態。
・白紋の位置が、エリトラ中央のコブの後端に近い。
・コブの側縁を小顆粒が縁取る。
とhybrid♀とまったく同様に、両種の特徴と中間的な特徴を併せ持っている。
まちがいなく、hybrid♂だ。
ありがたいことに、これをいただけることに。
この後も、セダカばかり追加して、最後にようやくフジコブ♀が落ちてきた。
この場所では、2008年から数回採集しているが、合計で
フジコブヤハズ:5♂♂4♀♀
Hybrid:1♂1♀
イワワキセダカコブヤハズ:7♂♂6♀♀
となった。
Hybrid出現頻度が、親の1/10程度。
人為的には、hybrid同士を交配させての累代も可能らしいが、自然状態ではhybridの増殖はなく、
偶発的な交雑によって、hybridが発生しているように思われる。
すくなくともフジコブヤハズとイワワキセダカコブヤハズの間では、十分に種分化ができていると考えてよさそうだ。
2013.10.20 記